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大阪高等裁判所 昭和45年(ラ)56号 決定

抗告人

広島市

代理人

小竹正

相手方

井土紀六

外二名

代理人

赤木文生

外一名

右当事者間の神戸地方裁判所尼崎支部昭和四三年(ワ)第三五三号慰藉料請求事件につき、抗告人が同事件を広島地方裁判所に移送する旨の決定を申立てたのに対し、前記尼崎支部は、その決定をしないまま昭和四五年一月二三日の口頭弁論期日において、自ら次回期日に証人二名を取調べる旨の決定を行つたことは、抗告人の前記移送申立を却下する旨の決定があつたものとして、抗告人より即時抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

(抗告の趣旨)

原審の証拠調決定を取消し、本件を広島地方裁判所に移送する旨の裁判を求める。

(抗告の理由)〈省略〉

(当裁判所の判断)

本訴記録によると、抗告人は、本訴の答弁書を提出する前の昭和四三年八月六日原裁判所に民訴法三一条に基づく移送の申立をしたが、原裁判所は、右申立につき許否の裁判をすることなく、本件訴訟を準備手続に付し、準備手続が施行され、第八回準備手続期日である昭和四四年一一月一九日に準備手続が終結されたこと、次いで、原裁判所は、抗告人の前記移送申立に対し何らの裁判をすることなく、昭和四五年一月二三日の口頭弁論期日において、当事者双方に従前の口頭弁論の結果および準備手続の結果を陳述させた上、相手方ら申出の証人井上明生同福沢とみの尋問を採用する旨の決定をしたところ、抗告人は、これをもつて抗告人の移送の申立を却下する決定があつたものとして、本件抗告をしたことを認めることができる。抗告人の前記移送の申立は、民訴法三一条によるものであるから、単なる職権発動を促す申立ではなく、申立権に基づくものというべきである。従つて、裁判所としては、右申立が裁判に熟したときは、これに対する許否の裁判をなすべきであり、右申立をした抗告人としては、移送の決定を受けた場合は、その目的を達することができ、もし申立を却下されたときは、民訴法三三条により即時抗告を申立てて、更に抗告裁判所の裁判を受ける利益を有するものというべきである。しかし、民訴法三三条は、「移送ノ裁判及移送ノ申立ヲ却下シタル裁判ニ対シテハ即時抗告ヲ為スコトヲ得」と規定しているのであるから、本件訴訟につき、既に準備手続が終結され、当事者双方の主張および証拠の整理も完了し、前記申立につき、裁判をなすに熟しているとはいえ、まだ却下の決定がない以上、抗告人としては、即時抗告をすることができないものというべきである。被告人主張の証拠決定は、訴訟指揮上の裁判にすぎず、これをもつて、抗告人の前記申立を却下したものと認めることはできないし、又右証拠決定に対しては、即時抗告も抗告もできないから、その取消を求める申立も許されない。本訴記録によれば、抗告人は、申立権に基づき、本件移送の申立をしたのに、原裁判所がこれに対し何ら許否の裁判をすることなく、証拠決定をし、証拠調を実施することを明らかにしたことにより、このまま右申立に対する裁判をすることなく、原裁判所において漫然と訴訟手続が進行され、抗告人の前記申立による利益が有名無実に終るかも知れないことを恐れ、右証拠決定がなされた即日本件即時抗告をし、原裁判所の処置に不服を表明したものと推測され、その意図は、これを了解するに難くないが、既に説示したとおり、本件については、まだ移送申立を却下するとの裁判がないのであるから、本件抗告は、その対象たる裁判を欠く不適法なものと認め、これを却下することとする。

よつて、抗告費用の負担につき、民訴法四一四条三七八条八九条九五条を適用して主文のとおり決定する。(岡野幸之助 宮本勝美 菊地博)

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